#Silhouette Extra Tale 改訂版 第1章「見知らぬ世界」前編 !v27=2 !v28=2 !v35=2 !v36=1 !wait60 私には……姉さんがいた……。 いつも勉強やお手伝いをサボって…… ずっと眠ってばかりだった、私の姉さん……。 私が怒って注意すると…… 逆に姉さんの方が怒りだして……。 そのたびに……私は泣いていた……。 ……。 !wait60 でも……。 そうやって私が泣き出すと…… 姉さんは、すぐに謝ってくれて……。 私のために……何でもしてくれた……。 ちょっぴり怠け者で怒りっぽいけど…… とっても優しい、私の姉さん……。 そんな姉さんのことが…… 私は……とっても大好きだった……。 ……。 !wait60 でも……。 今の私は……\sもう、泣いていない……。 いくら泣いても…… 無駄だって分かってるから……。 いくら泣いても…… 助けてくれる人なんていないから……。 いつも助けてくれた姉さんには…… \s二度と……\s会うことができないんだから……。 !wait100 \f[22]Silhouette Extra Tale 第1章 \s\f[40]見知らぬ世界 \s\m[46]\f[32]-Unknown- !se(System)キー3 !wait120 !mv301教室 !bgm高校 !se(環境)キンコンカンコン !wait200 !se @300 よーし、本日の\r[終礼,しゅうれい]はここまで。 学級長、あいさつを。 @220 起立、礼。 @1 「ありがとうございましたー!」 !wait40 @200 おっし、今日も授業が終わったぜ! @102 なんだか嬉しそうだね、リョウヘイ。 @200 そりゃ当たり前だろ。 先週は土日を挟んで4連休、 そして今週はずっと午前中授業……。 健全な男子高校生なら、 これを喜ばない手は無いぜ。 @102 学生の本分は勉強だって言葉が \r[虚,むな]しく聞こえる発言だ……。 @250 ……\sそれにしても。 休校といい、短縮授業といい、 本当に突然だったな……。 @100 でも、あれだけの事件が起きたんだし、 こうなるのも当然だと思うけどね。 @200 ああ、そうだな。 こうやってオレたちが羽を伸ばせるのも、 全てはシシトのおかげだぜ。 @101 人が危険な目に\r[遭,あ]ってたのを おかげとか言うなよ! 下手したら、こっちは 死んでたかもしれないんだぞ! @202 トラックに\r[轢,ひ]かれても 平気だった奴が、よく言うぜ……。 @250 村上だったら、どんな状況でも 生き残れそうな気がするんだがな。 @102 ……。 真っ向から否定できない 自分がいます……。 @1 事件が起こってから、ちょうど1週間……。 僕たちの生活も、ここに来て ようやく落ち着きを取り戻し始めた。 だけど、事件が残した影響は大きく、 街のどこへ行っても、耳に入ってくるのは 決まって同じような内容ばかり……。 倉庫街での爆発事件…… \s警察幹部による汚職事件…… \sそして、前に起きた銃撃事件……。 その全てが、犯罪発生率が極端に低い アクアフロート始まって以来の 大事件ばかりだった。 @102 (まあ、その裏では  パンツ消失事件なんていうものも  起こってたんだけどね……) @1 しかも、それで終わりじゃない……。 周辺の学校では、事件の影響によって 先週の授業が全て取りやめになり……。 その翌週……つまり今週中は、 ずっと午前中授業が続くことになった。 もちろん薙島高校も例外ではなく、 おかげで、リョウヘイはずっと大喜び……。 他のみんなも口には出さないけど、 やっぱり、早く帰れるのが嬉しいみたいだ。 逆に、事件の当事者だった僕や冬村さんは、 休みの間も警察の事情聴取があって、 ずっと忙しかったんだけどね……。 !wait40 でも……。 僕たちが誘拐された件に関しては、 \r[公,おおやけ]にされることなく、密かに処理された……。 なんでも……警察内部では今、 爆発事件や汚職事件の対応に追われてて、 こっちまで手が回らなかったらしい……。 そこで、僕たちの負担も考慮して、 孤狩警部たちが簡単に事件の処理を 済ませてくれたんだ……。 おかげで事情聴取も早めに終わって、 今は、こうして普段通りの生活を送っている。 ニュースにもなっていない事だから、 誘拐事件を誰かに追求されたりもしない……。 僕を含めた事件の関係者や家族、 そしてリョウヘイやアルバートを除けば、 誰も知らない事実だった……。 @200 ……ってワケで。 今日もゲーセンに行こうぜ。 @250 ああ、そうしよう。 @100 おっ、珍しくアルバートが乗り気だ。 @250 最近になって気付いたんだが……。 ゲームセンターには、 反射神経とかを鍛えるのに 最適なゲームが数多く揃ってるんだ。 それに勝ち続ければ金も減らないから、 ちょっとしたトレーニングと思って たまに通うようにしている。 @100 へぇー。 @200 でも、なんで急にトレーニングなんだ? @251 もちろん、ネコミミ女を拉致するためだ! @102 ……。 @202 お前、まだそんな事やってんのかよ……。 @102 ネコミミ女の存在は、アルバートが 前に証明してくれたじゃないか。 @250 ああ、確かにそのはずだった。 !wait20 だが……。 あの事件の起こった日の夜、 俺はパトカーで移動中のネコミミ女を 偶然にも目撃してな……。 @102 (あー、あの時か……) @202 周りが暗くて、乗ってた誰かを ネコミミ女と勘違いしたんじゃねーの? @251 いや、そんな事はない! あれは間違いなく、俺が前に見た 本物のネコミミ女だったんだ! @250 だから、今度こそ本物を捕まえて、 お前たちに見せてやる。 @102 いや、別にもういいからさ……。 @202 それ以上やってると、 ネコミミ女を捕まえる前に お前が警察に捕まっちまうぞ……。 @250 安心しろ、逃げるための トレーニングも抜かりはない。 必ず本物を連れてくるから、 大船に乗った気持ちで待っていろ。 @102 ……\sもう、何を言っても無駄か。 @202 ……\sだな。 ……。 @200 まっ、それは置いといて……。 シシトはゲーセンに来るか? @100 ……\sごめん。 今日も病院に行ってくるから……。 @200 ……そっか。 まあ、分かってたことだけどよ。 @102 じゃあ聞かなくてもいいじゃん……。 @200 でも、病院に行った後なら 時間はあるんだろ? たまには息抜きしないと体に悪いし、 用事が済んだら、お前も来いよ。 @100 ……そうだね。 あまり遅くならないようだったら、 後で行かせてもらうよ。 @200 よし、約束だぜ。 @250 待っているぞ、村上。 お前が来たら、トレーニングの成果を たっぷりと見せてやるからな。 @102 あ、うん、楽しみにしとくよ……。 ……。 @100 ……\sじゃあ。 そういう事で、僕は先に失礼するね。 @200 おう。 @250 また会おう。 !se(Action)学内歩き @1 スタスタ ……。 !wait40 @200 ……。 @250 ……行ってしまったな。 @200 ああ……。 @250 村上は、あの日以来 ずっと病院に行ってるのか……。 @200 アイツ、昔っから そういうとこあったんだよ。 @250 そうなのか? @200 中学ん時の話だけどな……。 オレが風邪ひいて 2、3日学校を休んだ時にも、 毎日見舞いに来てくれたんだぜ。 @250 そうか……偉いんだな、村上は。 @202 ……\sでもなぁ。 今回はただの風邪とはワケが違うし、 もう1週間も経ってるからな……。 さすがに心配だぜ……。 @250 だが、特に異常があるという ワケでもないんだろう? @200 医者が言ってた話では、 いつ起きてもおかしくないってさ。 @250 むう……。 @202 まっ、今のオレたちには 待つことしかできねぇからな……。 早く元気になって欲しいぜ、ホント……。 @250 ……\sそうだな。 !mvnil @0 !mv !wait40 !bgm !wait60 !mv保健室 !wait40 !se(Action)学内歩き !wait35 !se(Action)学内歩き !wait50 !se(Action)ドア開け !wait20 !bgm安らぎ !v27=1 @100 ……\sあっ。 @1 僕はウチで着替えを済ませた後、 いつも通りに、この病室へやって来た。 そして、自分の部屋に入るような感じで ノックもせずにドアを開けると……。 @500 ……村上シシトか。 @1 そこには、すでに先客が来ていた。 @102 その声は……フォックスさん? @500 ああ、1週間ぶりだな。 @102 まだ変装してるんですね……。 @500 この方が、何かと都合がいいからな。 @102 ……なるほど。 @500 とりあえず、そこに立ってないで 早く中に入ったらどうだ? お前も見舞いに来たんだろう? @100 あ、はい……。 !se(Action)ドア閉め @1 フォックスさんにそう言われて、 僕は病室の中へと入った。 1週間ずっと通い続けている、 日当たりのいい、この小さな部屋……。 二つのベッドが並んで置いてあるだけで、 それ以外には、本当に何もない……。 片方のベッドも、1週間前から ずっと空いたままの状態が続いていて、 今はフォックスさんが腰掛けるのに使っている。 !wait40 そして……\sもう片方のベットには……。 @100 セト……。 @1 \r[未,いま]だに意識の戻らないセトが、 ずっと眠り続けていた……。 @100 ……。 @500 ……看護師から話は聞いた。 もう、1週間もこのままらしいな……。 @100 ……はい。 !wait20 @102 あ、でも……。 知り合いの専門家に聞いたら、 もう目を覚ます頃だって言ってましたよ? @500 ……本当か? @100 僕でも分かる内容でしたから、 信用していいと思います。 @500 そうか……。 @102 (……\sまあ) (とっておきの専門家だからね……) (なにしろ、女神様だもん……) @1 セトが気を失ったのは…… たぶん、魔法を使ったのが原因だ。 だとしたら、普通の医者にいくら聞いたって、 詳しいことは絶対に分かりっこない……。 そう考えた僕は、「魔法の専門家」である 女神様に電話をかけてみたんだ。 !wait20 !mvnil @100 ……という事なんですけど。 女神様、なにか心当たりありませんか? @1 "うーん、そうですね……" "おそらく……\s『魔力の反動』でしょうか?" @102 魔力のはんどー? @1 "はい、その状況から考えれば、  ほぼ間違いないかと……" @102 ……それって、何ですか? @1 "えー、詳しく説明しますとですね……" !wait40 @0 !mv保健室 !wait20 @100 (魔法使い特有の症状、か……) @1 魔法使いというのは、 使用者の力量と比例して 高度な魔法が使えるようになる。 しかし、\r[鍛錬,たんれん]が不十分な魔法使いが 無理に高度な魔法や不得意魔法を使うと、 体に大きな負担がかかり……。 場合によっては、魔法を使った瞬間に 気絶してしまうことがあるらしい。 それが……『魔力の反動』。 簡単に言ってしまえば…… RPGでレベルの低い魔法使いが 色々な呪文を使えないのと同じ原理で……。 魔法少女の場合は、変身によって 魔法使いとしてのレベルが上昇するから、 魔法が使えるようになるんだそうだ。 @102 (……にしても) (まさか、女神様がRPGの話を使って  原理を説明するなんてね……) (まあ、分かりやすかったから  別にいいんだけどさ……) @1 そして、『魔力の反動』で気絶した場合、 目が覚めるまでには、約1週間……。 長くても10日程度しかかからなくて、 命にも別状は無いらしい……。 確かな根拠に基づいた、的確な診断……。 ここまではっきり言える医者なんて、 世界中を探しても、きっと他に 見つからないだろう……。 そんな確信もあって、今は、 割と安心して毎日を過ごせている。 後は……セトが目を覚ますのを、 じっくりと待つだけだった……。 !wait40 @100 ……\sあれっ? @500 どうかしたのか? @102 あ、いえ、ちょっとした事なんですけど……。 確かセトは、おじいさんと一緒に 二人暮しをしてるって聞いてたんで……。 セトのおじいさんは、 今、どうしてるのかなって……。 @500 親父には、適当な理由をつけて ツアー旅行に行ってもらった。 当分は、こっちに戻って来ないだろう。 @102 いいんですか、そんなんで……。 @500 下手に一人で行動させるよりは ずっと安心だからな……。 こうしておけば、親父の徘徊癖に 頭を悩ませる心配も無い。 @102 そういえば、セトのおじいさんって 徘徊するんでしたよね……。 ……。 @100 ……\sえっ? 今、親父って……。 まさか……フォックスさん……。 @500 ……ああ。 俺の本名は、ジェイク=ドライエル。 そして、妻の名は……犬山フミヨ。 @100 ……\sやっぱり。 @500 分かっていたのか? @102 あの時の様子を見ていて、 なんとなく、そうなんじゃないかと……。 @500 そうか……。 では……今度は俺からも、 一つ質問させてもらっていいか? @102 はい、何ですか? !wait40 !bgm @500 ……\s俺は、\s死んだのか? !wait20 !bgm黄昏 @100 ……。 @500 銃で頭を撃たれた感覚は 確かにあった……。 そして、あそこに転がっていた、 眉間を撃ち抜かれた死体。 ……俺は一体何だ? @100 ……。 !wait40 実は、神様にお願いして 一回だけ生き返らせてもらった。 !wait20 @102 って言ったら信じる? @500 ……。 !wait40 信じる……。 @102 ……普通は信じられませんよ。 @500 ……そうかもな。 だが……あの冬村サユキの傷を 一瞬で治した力だって存在するのだ……。 ならば、本当に神がいて、 俺を生き返らせてくれたのだとしても、 別に不思議なことではない……。 そう思っただけだ……。 @100 ……\sそれもそっか。 @500 ……。 !wait40 @1 ジェイクさんはそう言ったっきり、 セトの方を見たまま黙り込んでしまった。 冬村さんの傷を治した力の存在を、 ある程度までは認めているようだけど……。 セトがその力を使ったことについては、 少しも触れようとはしなかった……。 やっぱり、未だに信じられないんだろう……。 心配そうに見つめるジェイクさんの目には、 一言では表せない、複雑な気持ちが 込められてるように感じた……。 !wait40 @100 (……\sそれにしても) (あの時、セトに何が起きたんだろう……) (なんで、急に魔法なんか……) @1 セトが気を失った原因は分かった。 でも、セトが魔法を使えた理由は、 1週間経った今でも全く分かっていない……。 人一倍真面目で、勉強ができる以外は、 ごく普通の女の子だったんだ……。 だから\r[尚更,なおさら]、思い当たる節が 何も浮かんでこなくて……。 セトが起きるのを待つ以外に、 それを知る方法は無いように思えた……。 !wait60 !bgm !se(Action)ドア開け ガチャ @100 ……んっ? !wait40 !bgm安らぎ @410 あっ、シシト君、もう来てたんだ……。 @1 すると、少し意外そうな顔をしながら、 冬村さんが病室にやって来た。 @412 あーあ、ちょっと残念……。 今日は私の負けかぁ……。 @102 いや、お見舞いに来る順番で 勝ち負け競われても困るんだけど……。 というか、ここ来るたびに それ言ってるよね? @410 いいのいいの。 だって、お見舞いなんだもん。 色んな話をして、賑やかにしないとね。 !wait20 @412 ……\sそれにさ。 私たちまでしんみりしてると、 犬山さん、きっと寂しいと思うから……。 @102 あっ……。 !wait40 @100 ……。 確かに、そうかもね……。 !wait20 @410 ……\sところで、シシト君。 そちらのおじいさんは? @500 ← @100 フォックスだよ、冬村さん。 @410 ……1週間見ないうちに だいぶ老けちゃったんですね。 @500 ガーン!! @102 冬村さん……それ、変装だから。 @412 あっ、そうだったんだ……。 ごめんなさい、全く気付かないで 失礼なこと言っちゃって……。 @102 (気付かなくても言わないよ、普通……) @500 いや……別に構わんさ。 むしろ、こちらが礼を言いたいくらいだ。 娘のために、こうして何度も 足を運んでくれてるのだからな……。 @410 えっ? それって……。 @100 実はかくかくしかじか。 @500 便利な言葉だな……。 !wait20 @410 ……\sそっか。 フォックスさんの正体って、 犬山さんのお父さんだったんだ……。 @500 ……ところで、冬村サユキ。 @410 はい? @500 ……。 今時の女子高生というのは、 あんな話を平気でしているのか? 娘を持つ父親の立場としては、 非常に心配なんだが……。 @411 ちっ、違いますよ! あの話はたまたまだったんです! @500 そうか……ならいい。 @102 ……。 @500 あと、言い忘れていたが……。 俺の正体については、 くれぐれも黙っていてくれ。 もちろん、セトにもな……。 @100 えっ? @410 犬山さんにも内緒なんですか? @500 色々と事情があってな……。 まだ、本当のことを打ち明ける ワケにはいかないのだ……。 @100 はあ……。 @410 そうなんですか……。 @500 そこで、だ。 俺がこの姿をしている間は、 セトの父親ではなく、祖父ということに しておいてもらいたい……。 祖父の名は、バルト=ドライエルだ。 @100 はい、分かりました。 @410 バルトおじいさん、ですね。 @500 ああ、それで頼む。 @100 (フォックスさんがジェイクさんで、  今はバルトさん、か……) (……) @102 (なんだか、ややこしいなぁ……) !wait40 @500 ……\sしかし。 父親である俺が、たった一度しか 来てやれないというのに……。 二人には、感謝してもしきれないな……。 @102 それは大げさですよ。 ジェイ……\sバルトさんは、 他にもやる事があるんでしょうし……。 @410 シシト君の言うとおりです。 @412 犬山さんは、私たちにとって 大切な友達ですから……。 バルトさんが来られない分まで、 私たちが、しっかりお見舞いします! @500 ……\sふっ。 セトは、いい友達を持ったものだな……。 重ね重ねになるが…… セトの見舞いに来てくれたこと、 本当に感謝しているぞ。 @102 いや、別に改まらなくても……。 !wait60 !bgm @1 \f[16]「……んっ」 @100 ! @500 ! @410 ! @1 その瞬間、僕たちの会話は途切れ、 病室の中が水を打ったように静まり返る……。 実に、1週間ぶりに聞いた声……。 僕たちのずっと待ち望んでいた声が、 病室の中に響き渡って……。 そして……。 !wait40 「う、う〜ん……」 「……」 !wait60 @400 ……。 @1 \r[声の主,セト]が、ゆっくりと目を開いた……。 @400 ……。 !wait40 ここは……。 @100 ……\s病院だよ。 @400 えっ? @1 何も無い天井をぼうっと見つめながら、 そんな質問を口にしたセト……。 呟くように言われたそれに対して、 僕はとっさに答えを返した。 @100 あっ……。 @1 すると、声に反応したセトが、 こっちの方にいきなり顔を向けて……。 @400 ……。 @100 ……。 @1 次の瞬間……僕は、セトと目を合わせた。 @400 ……。 !wait40 @1 セトは、何もしゃべらない……。 透き通るような青い瞳を 僕の方へ真っ直ぐに向けたまま、 ずっと黙り続けてる……。 その様子に、なんとなく目を逸らせなくて、 僕も同じようにセトを見続けていた……。 @400 ……。 @102 ……。 @1 でも……なんでこんなに 不思議そうな顔してるんだろ……? 別に、見ず知らずの人でも無いのに……。 まだ起きたばっかりだから、 状況がよく分かってないのかな? @400 ……。 !wait60 @402 ……。 @100 ……えっ? @1 しかし、そう思ったのも束の間……。 セトは僕の顔をしばらく見た後、 急に表情を曇らせて……。 自分の布団を両手で持ち上げ、 顔を半分隠してしまった。 @100 ……\sセト? どうか、したの……? @402 ……。 !wait40 あ、あの……。 すごく、申し訳ないんですけど……。 !wait60 !mvnil @0 「あなたは……誰ですか……?」 !wait100 !bgmサスペンス @500 き、記憶喪失!? @1 「……はい」 「どうやらお孫さんは……  自分の過去や身の回りの記憶を、  ほとんど思い出せなくなっているようです」 @500 ど、どうしてなんですか!? どうしてそんな事に……! @1 「大変申し訳ないのですが……」 「今回のように、何の前触れもなく倒れて、  そのまま記憶喪失になる事例は  過去に報告がなく……」 「詳しい原因については、何も……」 @500 そん、な……。 @1 「本当にすみません……」 @500 ……。 !wait40 先生……。 むす……\s孫は、元に戻れるんでしょうか? @1 「脳波の異常や頭部への外傷などは、  特に見受けられませんでした」 「また、精神状態も安定しており、  実生活に関する知識も残っています」 「おそらく……この記憶喪失は  一時的なものでしょう」 「時間が経てば、次第に  記憶も戻ってくるはずです」 @500 ……。 そうですか……。 @1 「では……私からの話は以上です」 「今は、早くお孫さんのところに  行ってあげてください……」 「このようなケースでは、  家族や友人と接することが、  何よりの特効薬になりますからね……」 @500 ……分かりました。 ありがとうございます、先生……。 @1 「医者の私が、こんな言葉を使うのも  \r[不謹慎,ふきんしん]かもしれませんが……」 「一日も早いご回復を……  心から、お祈りしています……」 @0 !mv !wait40 !bgm !wait60 !mv保健室 !bgm安らぎ !wait40 @400 えーと、つまり……。 私の名前は、犬山セトで……。 今は、バルトおじいちゃんと 二人暮らしをしているんですね? @100 うん、そうだよ。 @410 本当に何も覚えてないんだね……。 @402 ……ごめんなさい。 @412 あ、ううん、そう謝らないで。 ゆっくりと思い出してくれれば、 それでいいからさ……。 @100 そうだね、自分を責めちゃダメだよ。 僕たちも協力するから、 焦らずに頑張ろう。 @404 は、はいっ! ありがとうございます! 冬村さん! 村上さん! @102 ……村上さん? @400 あれっ? お名前は、村上シシトさんで 合ってましたよね? @102 うん、間違ってはいないんだけどさ……。 妙な違和感が……。 @410 犬山さんは、シシト君のことを いつも下の名前で呼んでたからね。 @400 そうだったんですか……。 @100 だからさ……。 セトが僕を呼ぶ時も、 下の名前で呼んでいいよ。 @402 えっ、でも……。 @102 僕だって、君のことを セトって呼んでるワケだしさ。 これでおあいこだよ。 @410 それに、普段通りの呼び方をしてれば、 より早く思い出せる可能性だって 十分に考えられるもんね。 @400 そ、それは、確かに……。 @412 ねっ、そう思うでしょ? だから、遠慮しないで…… まずは声に出して呼んでみなよ。 ほらっ、練習、練習。 @400 ……。 !wait40 じ……じゃあ……。 !wait40 @403 ……。 \f[20]シ……\s\f[16]シシト……\s\f[12]さん……。 @410 はい、よく出来ました。 @102 ……下の名前を呼ぶだけで、 なんでこんなに時間かかるんだ? (おまけに、シシト\r[さ,・]\r[ん,・]だし……) @1 まあ……今のセトには そういう記憶が無いもんね……。 なんか変な気分だけど…… これくらいは、しょうがないか……。 !wait40 !se(Action)ドア開け ガチャ @500 ふぅ……。 @100 あっ、お帰りなさい、バルトさん。 @410 先生……なんて言ってましたか? @500 どうやら、特に異常は無いみたいだ。 記憶喪失も一時的なもので、 じきに回復するらしい……。 @100 そうですか……。 @412 よかったぁ……。 @500 ああ、全くだ。 記憶が戻るまでは安心できないが、 これで、やっと落ち着けるな……。 @102 まだ問題は山積みですけどね……。 @410 とりあえず、バルトさんは これからどうするつもりですか? @500 ……そうだな。 実生活の記憶は残っているようだし、 いつ退院させても問題無いと 先生は言ってたが……。 @100 なら、早く退院させてあげた方が いいんじゃないんですか? @410 日常に近い生活をしていれば、 記憶を思い出すのも早そうだもんね。 @500 それに関しては、俺も同じ意見だ。 !wait20 しかし……。 少々、厄介な問題があってな……。 @100 厄介な問題? @500 セトが退院した場合に、 誰がその面倒を見るかだ。 @102 ああ、なるほど……。 @410 どういう事ですか? @500 村上には、さっき話したんだが……。 今、俺の親父はツアー旅行の最中で、 家には誰もいない状態なんだ。 さらに、俺自身も仕事があって、 セトの面倒を見てやることができない。 今日、ここに来られたのも、 ようやく時間ができたからだしな……。 @410 ……\sでも。 犬山さんが……大事な一人娘が こういう状態なんですし……。 数日くらいは、お仕事を 休んだりできないんですか? @500 それができるのなら、 始めから悩んだりしないさ。 しかし、俺のやってる仕事は、 そういう事が許されぬ世界だからな……。 自分の都合で勝手に事を進めると、 最悪、セトにまで迷惑をかける 可能性もあるのだ……。 @412 ……\sごめんなさい。 私、事情もよく知らないで……。 @500 いや、お前の意見は正しい。 家族のためと言いながら、 ずっと家を離れていた俺の方に 問題があるんだ……。 @412 そ、そんな事は……。 @500 ……それにだ。 セトは、父親である俺のことを ほとんど何も知らずに育ったんだ。 仮に面倒を見られたところで、 他人同然の父親では、効果の程も 期待できないだろう……? @410 あっ……。 @100 (……そういえば) (セト自身も、お父さんのことは  全然知らないって言ってたもんな……) !wait20 @412 ……。 なんだか、悲しいですね……。 お父さんがこんなに近くにいるのに、 何も、分かってないなんて……。 @500 ああ……その通りだな。 俺は、ひどい父親だ……。 !wait40 @400 ……\sあのー。 さっきから、皆さんで 何の話をしているんですか? 声が小さくて、こっちまで よく聞こえなかったんですけど……。 @100 セトが退院した場合に、 どうしようかっていう相談だよ。 @500 本当だったら、そのまま自分の家に 帰れれば一番いいのだが……。 ワシは仕事があって、 しばらく家にいられなくてな……。 @402 おじいちゃん、お仕事に 行っちゃうんですか……? @500 ……\sなあ、セト。 @400 何? @500 できれば……グランパと 呼んでくれないか? @400 グランパはおじいちゃんって意味だから、 おじいちゃんで問題ないですよね。 @500 ガーン!! @102 (……なるほど) (自分をパパって呼ばせたがるのは  本当のことだったんだ……) (そして、何気にひどいな、セト……) !wait20 @410 でも……困っちゃったね。 特に病気でも無いのに、 自分の家に帰れないなんて……。 @500 かといって、ずっと病院にいては セトもつらいだろうからな……。 一体、どうしたものか……。 @402 うーん……。 @410 むーん……。 @500 ぬーん……。 @100 ……。 !wait60 あの、ジェ……\sバルトさん? @500 ……\sなんだ? !wait30 !bgm @100 だったら、ウチでセトを預かりますか? @400 へっ……? @410 えっ……? @500 ……。 @100 ? !wait20 @102 ……。 あの……バルトさん? @500 ……。 !wait40 村上シシト……。 @100 はい? !se(Action)カチャッ @1 カチャ @500 ……。 ←(無言で銃を突きつけてる) @100 ……。 ←(眉間に銃を突きつけられてる) !wait40 !bgm緊急事態 @101 はいいぃぃぃぃー!? @401 け、けけっ、拳銃ぅぅぅ!? @500 キサマ、セトを自分の家に連れ込んで 何をやらかす気だったんだ……? @104 いや、何もしませんからっ! 話を最後まで聞いてください! @410 シシト君って、そういう人だったんだ……。 @101 冬村さんも誤解しないでー!! @500 じゃあ、何だと言うのだ? !wait30 !bgm安らぎ @102 ……単純に、それが一番 手っ取り早いと思ったからですよ。 ウチなら母さんや姉さんもいるし、 面倒見る分には問題なさそうだなって……。 @402 えっ、でも……。 その場合……シシトさんや 家族の人に迷惑がかかるんじゃ……。 @100 ああ、それは心配いらないよ。 @102 僕は迷惑だと思ってないし、 ウチの家族も、僕以外の人には 基本的に優しいからね。 ちゃんと事情を説明すれば、 すぐに\r[承諾,しょうだく]してくれるよ。 @400 はあ……。 @100 ……それにさ。 こういう場合って…… 下手に関係ない人を巻き込むと、 話がややこしくなるからね。 だけど、バルトさんは仕事があるし、 冬村さんは一人暮らしだから 負担が大きすぎる……。 そうなると、ウチで預かるのは、 現時点で一番いい方法だと思うんだ。 @500 むぅ……確かに……。 @410 私だと、平日は学校もあるし…… 家にいない時間の方が多いからね。 !wait20 @412 もし犬山さんがウチに泊まるなら、 私も、できる限りは頑張ってみるけど……。 やっぱり、シシト君の家に 泊めてもらうのが最善なのかな……? @102 まあ……最終的には セトがどうしたいかだけどね……。 そういう事なんだけど……\sどうする? @400 ……。 !wait40 え、えーと……。 !wait40 @403 ……。 あ、あの……\s私は…… \sそれで……大丈夫、です……。 @500 ……。 !wait40 ……分かった。 とりあえずは、お前に任せよう……。 だが、セトに何かしようとしたら タダでは済まさんからな。 @102 ……はい。 @412 (……\sいいなぁ) (犬山さんの記憶が戻ったら……  次は、私が泊まりに行けないかな?) !wait40 @100 ……\sさて。 話も決まったことだし……。 まずは、母さんに電話して、と……。 @1 ピッ、ポッ、パッ プルルルルル…… !wait40 !se(System)決定 "はい、シシトの母です" @102 その息子です……。 @1 "はいは〜い、分かってるわよ〜♪" "それで……どうしたのかしら?" @100 突然なんだけどさ……。 今日からしばらくの間…… セトをウチに泊めていいかな? @1 "えっ?" "セトって……セトちゃんよね?" @100 うん、そう。 @1 "なんですって!!" @102 あっ、いや、実はさ……。 @1 "ほほほ、言わなくても大丈夫よ〜" "ちゃんと\c[2]赤飯\c[0]を炊いておくわ\wh" !bgm @100 ……。 @500 ……。 !wait40 !se(Action)カチャッ ……それは、どういう意味だ? @105 !mvnil @0 !mv !wait80 @1 僕の予想通り、母さんは セトの宿泊を快く了解してくれた。 でも……こういう時の赤飯発言は 本当に勘弁して欲しい……。 命がいくつあっても足りませんから……。 !wait60 まあ……\sそんなこんなで……。 セトは……目が覚めた その日のうちに、無事退院し……。 僕たちはセトの家で用意を済ませて、 それから、僕の家へと向かった。 ……。 そして、その間ずっと……。 僕と冬村さんは、セトと一緒に 色んなことを話し続けた。 僕たち三人が、アクアフロートで 初めて出会った時の話……。 ここ1ヶ月の、学校や塾での生活……。 そして、休日に起こった出来事……。 そのどれもが、僕たちにとっては まだ真新しい記憶ばかり……。 でも、今のセトにとっては、 そのどれもが身に覚えのない 記憶ばかりだった……。 !wait60 だけど……。 @403 @1 そうやって話を聞いてるセトは、 ずっと明るい顔をしてて……。 それだけが……今の時点では 唯一の安心材料だった……。 !wait100 @0 !mv \> \