ヒロシマの心を世界に
核も戦争もない社会を
第52回にいはま母親大会
2011/6/12 二見伸吾
(広島県労働者学習協議会講師)
●はじめに
 
 3.11 東日本大震災
 
 「核」 核兵器と原子力
 
1.フクシマ 
 
 地震と津波は天災だが、原発事故は明白な人災
 
 なぜ狭い国土、しかも地震大国である日本に54 基もの原発があるのか
 
(1)日本における原発の原点
 
 アメリカの核戦略  いつでもどこの国に対しても自由に使う
 
  その一環として原子力の平和利用(Atoms for Peace)
 
 アメリカの核戦略の障害となった日本の反核世論 ヒロシマ、ナガサキ、ビキニ
 
 それを封じ込めるために考え出された
   「毒(原発)をもって毒(反核世論)を制す」(資料)
 
 安全神話の原点もまたここにある。
 原子力は安全だと思わせることが目的なのだから。
 
(2)国策としての原発
 
 日本のエネルギー政策  
  石炭・水力→石油へ(1960年が転機)
 
 1973年石油危機  原子力へ傾斜を始める
 
(3)大企業の格好の儲け口となった原発
 
 利権の塊 買収は当たり前  見学旅行、カネ、酒、ウソ…
 
 「原発は民主主義の対極にある」(鎌田慧)
 
 東京電力は自分の供給エリアには一つも原発をつくっていない(福島と新潟)
 
 三菱重工、三菱電機、東芝、日立  原発御三家(四家?)
 
 大成、大林、清水などゼネコン
 
 政治家への献金、官僚の天下りというおきまりの構造
 
●町はさびれるばかり
 
 原発ができて、町が発展したところなどどこにもない。
 
 補助金で箱モノはできるが、住民生活はよくならない。
 
 麻薬漬けと同じような「補助金づけ」
 
●原発は温水発生装置 ちっともエコじゃあない
  100KWの原発は200KW の余熱を温排水として海へ
 
 日本の全降水量 6500億トン 全河川流量4000億トン 
 原発の出す温排水(7℃水温を上げる)は?
 
●内部被曝の怖ろしさ
 
 外部被爆とは違うメカニズムで人体をむしばむ
 
●原発がなくても電気はまかなえる
 
 @電気の使われ方は季節によって大きく変動 〜夏は春秋の50%増
 A一日のピークは1〜4時
 B東京電力の過去最大電力は6430万KW(2001年7月24日)、この年6000万KWを超えた時間はわずか25時間、日数では6日にしか過ぎない。
(東京電力TEPCO Report2003年8月、HPより)
 
 家庭用の電力は全体の34.3%に過ぎない。
 特定規模需要61.6% 〜工場など
 
 浪費社会を考え直すとき
 
 夏はバカンスを  7月〜9月 4週間の連続有給休暇(ヨーロッパでは当たり前)
 
●反核・脱原発へ
 
 日本人の思いを逆手にとった「原子力の平和利用」 
 
 「安全神話」は崩れ去った。 新たな原発をつくらせない。今ある原発を廃止する。
 
 核兵器の廃絶……内部被曝を含めた核被害の理解が鍵を握る
 
 風力、地熱、太陽エネルギー、バイオマスなど再生可能なエネルギー源の可能性
 
2.ヒロシマのこころと日本国憲法 
 
●「ヒロシマのこころ」とは
 
 「リメンバー」(覚えておけよ)ではなく、「ノーモア」(二度と繰り返すな)
 
 どうやって二度と繰り返さないのか
 
 「二度と戦争をしない」 →そのために「9条」
 
●9条第1項を実現するてだてとしての第2項
 
 第1項「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」
 
 これが第2次世界大戦後の世界標準→国連憲章
第2条第3項「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」
同第4項「すべての加盟国は、その国際関係において、武力よる威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない
 そして、この国連憲章=憲法9条第1項のもとは「パリ不戦条約」(1928年)
 
 第1項だけでは平和を貫くことができなかった反省から第2項が追加された(せざるをえなかった)
 
 アジアの戦争被害 約2000万人の戦死者 
 
 アジアの人びとの「平和へのねがい」が9条を誕生させた第一要因
 
●ヒロシマ・ナガサキの経験が9条に 
 
  〜文明が戦争をなくすか、戦争が文明をなくすかの瀬戸際
 
  国連憲章と日本国憲法の共通点と違い
 
  なぜ日本国憲法は徹底した平和主義に到達しえたのか?
 
 「次回の世界戦争は一挙にして人類を木っ端微塵に粉砕するに至ることを予想せざるを得ない」「文明が速やかに戦争を全滅しなければ、戦争が先ず文明を全滅することになるでありましょう」(幣原国務大臣の答弁。貴族院本会議1946年8月27日。星野安三郎『平和に生きる権利』法律文化社、43ページ)。
 
 「次ニ第九〔条〕ハ何処ノ憲法ニモ類例ハナイト思フ。日本ガ戦争ヲ抛棄(ほうき)(=放棄)シテ他国モ之ニツイテ来ルカ否カニ付テハ余ハ今日直(ただち)ニサウナルトハ思ハヌガ、戦争抛棄ハ正義ニ基ク正シイ道デアツテ日本ハ今日此ノ大旗ヲ掲ゲテ国際社会ノ原野ヲトボトボト歩イテユク。之ニツキ従フ国ガアルナシニ拘(かかわ)ラズ正シイ事デアルカラ敢()ヘテ之ヲ行フノデアル。原子爆弾ト云ヒ、又更ニ将来ヨリ以上ノ武器モ発明サレルカモ知レナイ。今日ハ残念乍(なが)ラ各国ヲ武力政策ガ横行シテ居()ルケレドモ此処二十年三十年ノ将来ニハ必ズ列国ハ戦争ノ抛棄ヲシミジミト考ヘルニ違ヒナイト思フ。其ノ時ハ余ハ既ニ墓場ノ中ニ在ルデアラウガ余ハ墓場ノ蔭カラ後ヲフリ返ツテ列国ガ此ノ大道ニツキ従ツテ来ル姿ヲ眺メテ喜ビトシタイ」(1946年3月20日枢密院ニ於ケル幣原総理大臣ノ憲法草案ニ関スル説明要旨)
 
 ヒロシマ・ナガサキとはなにか 原爆被害、被爆の実相とは  被害が終わらない
 
 新しい戦争の質と量が「戦争そのものをなくす」という飛躍をもたらした。
 
 人類の英知の結晶としての第9条
 
●沖縄の心
 
 ”沖縄のこころ”とは、人間の尊厳を何よりも重く見て、戦争に繋(つな)がる一切の行為を否定し、平和を求め、人間の発露である文化をこよなく愛する心であります。
(沖縄県平和祈念資料館ホームページより)
  沖縄のこころはそのまま「ヒロシマのこころ」でもある。
 
  それはまた、日本国憲法にまっすぐ結びついてる。
 
3.日本国憲法によりそってたたかってきた女性たち
 
  「人殺しの手伝いはダメ。どうしてもいくなら私たちをひいてからいけ」
(朝鮮戦争のなかで)
 
  「お母さんはなぜ戦争に反対しなかったのかといわれ、五寸釘をさされる思い」(第2回母親大会で被爆者が語った言葉)
 
   「弁当箱わすれてもベトナムカンパを忘れるな」(ベトナム反戦運動)
(『おふくろたちの労働運動』)
 
 「いま、戦争で殺され、地雷で吹き飛ばされ、売られ、虐待される無数の子どもたちをほんとうに守るみちは、女性が自立した個人として人権を保障されることなしにありえないのではないか。母親運動が子ども=生命を守る運動として積み上げられてきたものをふまえて21世紀の新しい前進を期待したい」(米田佐代子さんのことば)。
 
 「わたくしたちは、いつでも現実を視る鋭い眼と、はるかな未来を見透す長い眼と、心の内側を凝視するかつて瞬きをしたことのない深い眼と−−この三つの眼をもって生きたいと思います」(平塚らうてう)
 
●まとめにかえて
 
  日本国憲法の実現を阻む「ジョーカー・安保」=日米同盟
 
  母親大会は日本国憲法と分かちがたく結びついている。
 
  ぜひ、7月30日31日、日本母親大会へ。
 
 
 
 
 
《参考文献》
二見伸吾「主権者力を磨く」(『いろはにこんぺいとう』しずく工房、1〜7号)
 同  『ジョーカー・安保』かもがわ出版
小出裕章『隠される原子力 核の真実』創史社
鎌田慧『原発列島を行く』集英社新書
肥田舜太郎・鎌仲ひとみ『内部被曝の脅威』ちくま新書
全日自労建設一般労働組合(いまの建交労)編『おふくろたちの労働運動』労働旬報社
 
 
資料
 「毒をもって毒を制す」 原爆反対と原発
二見伸吾(広島県労学協講師)
 
 広島、長崎に原子爆弾が投下され、甚大な被害を受けた日本。放射能の怖ろしさを世界で一番知っているはずなのに、なぜ五四基もの原子力発電所があるのでしょうか。
 この素朴な疑問の答はやはり、アメリカです。
 一九五四年三月一日、アメリカはビキニ環礁で水爆実験をし、第五福竜丸の乗員が被爆。この事件をきっかけにして、全国各地で水爆実験禁止や原子兵器反対の署名運動がひろがりました。そして、五五年に第一回「原水爆禁止世界大会」が開かれ、「日本母親大会」も始まったのです。
 アメリカに対する批判も当然高まりました。日本人の核に対する恐怖、批判(米国務省の当時の報告書は「日本人の過剰な反応」と書いています)をどう抑えこむのか。危機感をもった日米の支配層のたどりついた策が、「原子力の平和利用」でした。
 読売新聞社主、正力松太郎の懐刀であった柴田秀利(日本テレビの重役)は、アメリカ側のエージェント、ワトソンにつぎのように告げます。
 「日本には『毒をもって毒を制する』ということわざがある。原子力は両刃の剣だ。原爆反対を潰すには、原子力の平和利用を大々的にうたいあげ、希望を与えるほかはない」。
 アメリカも「心理戦略計画」を見直す必要を感じ、「日本では新聞を押さえることが重要だ」という結論に達します。五五年一月一日から、読売新聞と日本テレビがタッグを組んで原子力の平和利用キャンペーンを開始。「明日では遅い」「なんの不安もない」「野獣も馴らせば家畜」と書き立てました。読売新聞社はアメリカから「原子力平和利用使節団」を招聘。その講演会を見開き二ページを使って特集し、日本テレビは娯楽番組を取りやめてナマ中継したのです。
 正力松太郎は、のちにアイゼンハワー大統領にあてた手紙で「原子力平和利用使節団の招聘は、日本での原子力に対する世論を変えるターニングポイント(転換点)になり、政府をも動かす結果になりました」と自慢しています。
 このような経過が示しているように、アメリカの核戦略を支えることが原発をつくる最大の目的なのです。「原子力は怖くない」と思わせるために原発はつくられ、稼働してきました。しかし、「事実は頑固」であり、「本質は現象する」のです。今回の福島原発の事故によって、原子力発電がけっして安全でないことを明らかにし、恐怖を与え続けています。 原発を推進してきた歴代政府、電力会社とともに読売新聞と日本テレビの罪は重い。
 そして、かれらを背後で操っているアメリカも。
 
(参考)NHK現代史スクープドキュメント「原発導入のシナリオ 冷戦下の対日原子力政策」1994年3月28日放送 インターネット上で観ることができます。